株式会社ハーティネス

コラム「マニュアルNOW」2003

 

マニュアル本も100円ショップに

2003年(平成15年)5月28日 日経産業新聞掲載

 「『エクセル』や『ワード』のマニュアル本が100円ショップで買えるのを知ってます?」
先般、仕事仲間のテクニカルライターから聞いた。パソコンやソフトウェアの市販の解説書、いわゆるマニュアル本を執筆している書き手には、衝撃的な出来事だ。

 早速手にとって見た。100円ショップ大手のダイソーを経営する大創産業が発行しており、本文はB5サイズ、96ページでフルカラー。安さに見合ったおまけのような内容ではなく、エクセルやワードの基礎的な使い方から、実際の書類を作るための操作が盛り込まれ、実用的な内容となっている。

 マニュアル本市場はウィンドウズ95が登場し、パソコンが急速に普及すると広がった。ウィンドウズがOS(基本ソフト)として多様な機能を持ち、アプリケーション(適用業務)ソフトが多機能化してくると、初心者にとってはパソコンを見ただけでは操作を覚えることはできない。そこで初心者向けマニュアル本がヒット、以後手多種多様な切り口の本が生まれた。

 パソコン普及のスピードが鈍り、新しいソフトウェアもあまり登場しなくなった今、マニュアル本はかつてのような勢いはない。同じような内容ならば安い本がいいと考える読者のニーズに合わせ、マニュアル本が低価格化し、似たような書籍がいくつも並ぶことになった。

 だがその結果、初心者はどれを選んだらいいのか選びづらくなっている。いい内容であっても次に出てくる新刊にスペースを奪われてしまい返本され消えていくマニュアル本も増えてしまった。

 昨年登場したこの100円ショップのマニュアル本は、価格のインパクトだけでなく、パソコンのマニュアル本を日用品を買う感覚で手に取れるという形態も新しい。パソコンが日常の道具になっている今、書店で買うよりも、消費者にとっては自然なことかも知れないのだ。

 情報技術(IT)が社会生活に浸透し、一般の市民の誰もがパソコンが操作できるようにリテラシー(読み書き能力)が求められる今、パソコンのマニュアル本もまた、手軽で便利さを追求するように発想を変えることが求められている。

 ただ、100円で収益が上がるためには、大量発行が必要で、扱うソフトウェアが限られてしまう。よく使われている特定のソフトに限らず、パソコンリテラシーを高めるためのマニュアル本を作るには、さらに知恵と新しい発想が求められる。